コーチングを活用したいと考えたとき、どのようなアプローチが自分に合っているのか迷うことがあります。実は、コーチングには様々な「流派」が存在し、それぞれに特徴や強みがあるのです。コーチングの流派を理解することで、自分の目標や価値観に合った方法を選ぶことができます。
今回は、コーチングの主要な流派について解説します。それぞれの特徴や適した場面、実践方法などを知ることで、より効果的なコーチング体験につながるでしょう。
コーチングの流派とは?その歴史と多様性
コーチングの流派とは、コーチングを実践する上での哲学や方法論、アプローチの違いによって分類されたものです。それぞれの流派には独自の理論的背景や技法があり、クライアントの目標達成をサポートする方法が異なります。
コーチングの流派は、日本の「道」文化における流派のように、それぞれが独自の哲学と実践方法を持っています。しかし、どの流派でも根底にある共通点は「相手の中にある答えや可能性を引き出し、変化と成長を促すこと」です。

コーチングの流派を知ることは、ツールボックスに様々な道具を持つようなものです。状況に応じて最適なツールを選べるようになりますよ!
コーチング流派の誕生と発展
コーチングは1990年代からアメリカで本格的に広まり始めた比較的新しい分野です。人間の自己実現や成長に焦点を当て、効果的な学びのプロセスを実践的な現場から開発してきました。
コーチングの流派が生まれた背景には、心理学や教育学、経営学など様々な学問分野からの影響があります。1980年代以降、従来の指導型アプローチの限界が認識され始め、個人の主体性を重視する新しいアプローチが求められるようになりました。
その結果、それぞれの理論的背景や目的に応じて、独自の手法やアプローチが発展してきたのです。コーチングの流派は確固とした区別があるわけではなく、現在も進化し続けています。
コーチング流派の選び方と活用法
コーチングを実施する際、コーチは一つの流派だけを使うとは限りません。目的、状況、相手に合わせて複数のアプローチを組み合わせながら行うことが一般的です。
より多くのモデルやスキルの引き出しがあるコーチの方が、質の高い効果的なコーチングが可能になります。自分に合った流派を見つけるためには、以下のポイントを考慮するとよいでしょう。
- 自分の目標や課題の性質(キャリア、人間関係、自己成長など)
- 自分の価値観や好みに合うアプローチ
- コーチとの相性や信頼関係
- 期待する成果やタイムフレーム
主要なコーチング流派とその特徴
コーチングには様々な流派がありますが、ここでは主要な流派について、その特徴や適した場面、実践方法などを詳しく解説します。
NLPコーチング:心と言葉のパターンを活用する
NLPコーチングは、1970年代前半に開発された「神経言語プログラミング(Neuro-Linguistic Programming)」を基盤としたコーチング手法です。人の思考や行動を変化させるためのツールや技術を提供する実践心理学として知られています。
NLPコーチングでは、クライアントの思考や言語パターンを観察し、認識、言語、行動の変容を促すことを目的としています。言葉の使い方や思考のパターンを変えることで、行動や結果も変わるという考え方に基づいています。
例えば、「私はできない」という否定的な表現を「どうすればできるようになるだろう」という質問形式に変えることで、脳が解決策を探し始めるよう促します。

NLPコーチングは言葉の力を最大限に活用します。「問題」を「チャレンジ」と言い換えるだけでも、取り組み方が変わってくるんですよ!
オントロジカル・コーチング:存在の在り方に焦点を当てる
オントロジカル・コーチングは、「存在論」を意味する「オントロジカル」という言葉が示すように、「行動様式」ではなく「在り方」に焦点を当てたコーチングアプローチです。1970年代後半にチリの哲学者フェルナンド・ローレンスによって理論化されました。
このアプローチでは、クライアントの存在や現実の「あり方」に焦点を当て、個人や組織が持つ基本的な信念や価値観、意識のあり方などにアプローチします。また、在り方が変化するためには、精神と身体と感情がすべて連動して変化する必要があるという考えに基づき、クライアントの気分や感情、表情や体の姿勢についても扱います。
オントロジカル・コーチングのプロセスには、以下のような要素が含まれます:
- 自己認識の深化:自分の価値観や信念を明確にする
- 言葉の選び方:ポジティブな表現を意識する
- 行動の変化:自己理解に基づいた自然な行動変容
- 目標設定と達成:自己理解を基にした具体的な目標設定
インテグラル・コーチングと全体的視点の重要性
インテグラル・コーチングは、1980年代以降にアメリカの哲学者ケン・ウィルバーの著書から生まれた「インテグラル・モデル」の枠組みを活用したコーチング手法です。インテグラルとは「完全な・包括的な・バランスの取れた・総合的な」という意味を持ち、4つの視点から物事を「見る」ためのサポートを行います。
インテグラル・コーチングの特徴は、「内的」「外的」「個人的」「集団的」という4つの象限を通して、クライアントの状況を総合的に捉えるアプローチにあります。これにより、単なるスキルの発達だけでなく、人としての生涯を通じた発達課題を明らかにし、その追求を共に目指していきます。
4象限モデルによる包括的アプローチ
インテグラル・コーチングの核となる4象限モデルは、以下のように構成されています:
- 内的×個人的:個人の内面、価値観、感情、思考など
- 外的×個人的:個人の行動、スキル、実践など
- 内的×集団的:文化、共有された価値観、組織の雰囲気など
- 外的×集団的:システム、制度、社会的構造など
このモデルを活用することで、クライアントは自分の目標や課題に対して、より広い視野を持って取り組むことができます。例えば、キャリアの変更を考えている場合、個人の情熱や価値観(内的×個人的)だけでなく、必要なスキルや資格(外的×個人的)、新しい職場の文化(内的×集団的)、業界の動向や経済状況(外的×集団的)など、多角的な視点から検討することが可能になります。

インテグラル・コーチングは「森も木も見る」アプローチです。個人の内面だけでなく、周囲の環境や社会的文脈も含めた全体像を捉えることで、より深い変化が可能になります。
メタレベルの思考と長期的発達
インテグラル・コーチングの特徴的な点は、単なるテクニックやスキルの向上を超えた、メタレベルでの「思想」的要素を持っていることです。このアプローチは、クライアントの短期的な目標達成だけでなく、長期的な発達や成長にも焦点を当てています。
例えば、リーダーシップ開発の場合、特定のリーダーシップスキルを身につけるだけでなく、リーダーとしての在り方や思考様式、価値観の発達など、より深いレベルでの変容を促します。これにより、状況に応じて柔軟に対応できる真のリーダーシップ能力を育むことができます。
インテグラル・コーチングは、特に以下のような場面で効果的です:
- 複雑な組織変革や文化的変化を促進したい場合
- 個人の長期的なキャリア開発や人生設計を考える場合
- チームや組織全体のパフォーマンス向上を目指す場合
- 多様な視点や価値観を統合する必要がある場合
コーアクティブ・コーチングと協働的関係の構築
コーアクティブ・コーチングは、1992年に創設されたCTI(The Coaches Training Institute)が伝えるコーチングスタイルです。「コーアクティブ」という名前には、コーチとクライアントが協力して(Co-)、能動的に(Active)関わるという意味が込められています。
コーアクティブ・コーチングの特徴は、コーチとクライアントの対等なパートナーシップを重視し、クライアントの行動(Doing)と存在(Being)の両方に焦点を当てる点にあります。このアプローチは、クライアントが自分自身の可能性を最大限に発揮し、充実した人生を送るためのサポートを提供します。
4つの礎と5つのコンテキスト
コーアクティブ・コーチングには、その哲学となる「4つの礎」があります:
- 人はそもそも創造力と才知にあふれ、欠けるところのない存在である
- 本質的な変化を呼び起こす
- 今この瞬間から創る
- その人すべてに焦点を当てる
また、コーアクティブ・コーチングの実践には、以下の5つのコンテキストが重要とされています:
- 傾聴:レベル3のリスニング(クライアントと環境全体に注意を向ける)
- 直観:コーチの直感を活用する
- 好奇心:判断せずに探求する姿勢
- 前進と深化:行動と内省のバランス
- 自己管理:コーチ自身の状態を整える
ポジティブ心理学コーチング:強みと幸福感に焦点を当てる
ポジティブ心理学コーチングは、マーティン・セリグマンらが提唱したポジティブ心理学の原則に基づいたアプローチです。このコーチング手法は、クライアントの強みや資源を活用し、ウェルビーイングや幸福感を高めることに焦点を当てています。
PERMAモデルの活用
ポジティブ心理学コーチングでは、セリグマンが提唱したPERMAモデルを活用することが多いです。PERMAは以下の5つの要素から構成されています:
- Positive emotions(ポジティブな感情)
- Engagement(没頭)
- Relationships(関係性)
- Meaning(意味・目的)
- Accomplishment(達成)
このモデルを用いて、クライアントの人生の各側面を評価し、バランスの取れた充実した生活を送るためのサポートを行います。

ポジティブ心理学コーチングは、問題解決だけでなく、クライアントの強みを伸ばし、幸福感を高めることに重点を置いています。これは、従来の問題中心のアプローチとは一線を画す革新的な方法です。
行動コーチング:具体的な行動変容を促す
行動コーチングは、認知行動療法の原理を応用したコーチング手法です。この流派は、クライアントの思考パターンと行動の関連性に注目し、具体的で測定可能な行動変容を促すことを目的としています。
ABCDE分析の活用
行動コーチングでは、ABCDE分析という手法がよく用いられます:
- Activating event(出来事)
- Belief(信念)
- Consequence(結果)
- Dispute(反論)
- Effect(効果)
この分析を通じて、クライアントの思考パターンと行動の関係性を明らかにし、より適応的な思考と行動を促進します。
行動コーチングの特徴は、具体的な目標設定と行動計画の立案、そして進捗の定期的な評価にあります。これにより、クライアントは自身の変化を客観的に把握し、持続的な成長を実現することができます。
以上が、主要なコーチング流派の概要です。各流派には独自の理論的背景と手法がありますが、いずれもクライアントの成長と可能性の拡大を支援するという共通の目的を持っています。コーチングを受ける際や学ぶ際には、これらの流派の特徴を理解し、自分に合ったアプローチを選択することが重要です。
よくある質問
回答 コーチングの主な流派には、民主的コーチング、権威的コーチング、全体論的コーチング、ビジョンコーチング、官僚的コーチング、発達的コーチング、マインドフルコーチング、変革的コーチングなどがあります。それぞれの流派には独自のアプローチや特徴があり、クライアントのニーズや目標に応じて選択されます。

コーチングの流派は、ツールボックスのようなものです。状況に応じて最適なツールを選べることが、効果的なコーチングの鍵となります。
回答 民主的コーチングは、クライアントに自由度を与え、自身の課題解決に主体的に取り組むことを促します。一方、権威的コーチングは、コーチが主導権を持ち、クライアントに明確な指示を与えます。民主的コーチングはクライアントの自主性を重視し、権威的コーチングは迅速な結果を求める場合に適しています。
回答 全体論的コーチングは、クライアントの人生全体を包括的に捉えるアプローチです。健康、家族、キャリア、財務など、生活のあらゆる側面のバランスを考慮し、それらの相互関連性に注目します。このスタイルは、クライアントの人生全体の調和と成長を目指します。
回答 マインドフルコーチングは、クライアントの自己認識と現在の瞬間への集中を促すアプローチです。このスタイルは、クライアントが自身の思考パターンや行動を客観的に観察し、変化の障害となっているものを特定するのを助けます。瞑想や肯定的な自己対話などの技法を用いて、クライアントの潜在能力を引き出します。
回答 必ずしも一つの流派だけに固執する必要はありません。効果的なコーチングは、クライアントのニーズ、状況、目標に応じて複数の流派やアプローチを柔軟に組み合わせることで実現できます。コーチの経験や専門知識、クライアントとの相性なども考慮しながら、最適なアプローチを選択することが重要です。

コーチングの流派を知ることは重要ですが、それ以上に大切なのは、クライアントの個別のニーズに合わせて柔軟にアプローチを調整する能力です。