広報担当者にとって、メディアとの良好な関係を築き、効果的に取材を獲得することは重要な課題です。本記事では、『広報のプロが教えるメディアのトリセツ―取材獲得への5ステップ』の著者である三上毅一氏に、メディア対応のコツと広報戦略について伺いました。
三上氏は、長年にわたり広報部門で活躍し、数多くのメディア対応を経験してきたプロフェッショナルです。
本書では、その豊富な経験に基づき、メディアの特性を理解し、取材獲得に繋げるための5つのステップを紹介しています。
インタビューでは、メディアとの信頼関係を構築するためのポイントや、広報担当者に求められる資質についても述べられています。
さらに、近年のメディア環境の変化を踏まえた広報戦略のあり方についても、見解を聞きました。
本書で提唱されている「取材獲得への5ステップ」の概要と、各ステップの重要性についてお聞かせください。
私が、これまで広報のプロとして40年の知見と経験を振り返ってみて、いくつかの取材を成功させるステップがありました。今回それを総括しました。
整理してみると、メディアを知って、情報提供して報道にいたる大きなポイントが5つに挙げられるます。
それは、
▼ステップ1:広報・PR活動を正しく理解する
上記でも説明しましたが、広報・PRと広告の違い。広報・PRのお客様は、メディアであること。情報提供するネタはメディアに刺さるかを理解する。
▼ステップ2:メディアについて知る
新聞、雑誌、TV、ネット各メディア&媒体特性を理解して、的確な情報を提供することが重要です。
▼ステップ3:広報活動を進めるための土台をつくる
広報・PRの成功は情報取集で決まる。自社を一言でいうとどんな会社なのか、キーワードを考える。お客様であるメディア人脈を多くつくりましょう。
▼ステップ4:自社の情報をプレスリリースなどに落とし込む
プレスリリースはA41枚でもOK!。重要なのはタイトル情報で取材が決まる。真似すべきは新聞記事、リリースの全てが理解できます。
▼ステップ5準備した情報を売り込む
先ずは、勇気をだして電話でコンタクトを!。新聞、雑誌、TV、ネットメディアの記者特性を知ることが重要となります。
私は、メディア=記者という“人”が介在します。情報は人が生み出すものです。人と人とが理解し、共感・共有を生むのは、“コミュニケーション”コミュニケーションで大切なのは相手を知ることが大変重要です。相手の思考や関心の分野を把握して、後は順序立てて少し広報のテクニックがあれば、自ずと成功へ辿り着きます。
効果的なプレスリリースの作成において、最も重視すべき要素は何だとお考えですか。
この質問は、多くの広報パーソンからよく尋ねられます。多くの広報書籍でもプレスリリースの効果的な書き方について解説されています。私が感じるのは、あまりにもテクニカル・手法ばかりに注目されてしまっているのも問題です。
プレスリリースは、A4サイズで、2~3枚にしなさい。多くの図や表紙を多用して見た目を工夫しなさい」多くの皆さんがこの呪縛から逃れていません。
“いかにニュース性のある情報か”が、最も重要な点です。極端な話ですが、ニュース性があればプレスリリースは必要ありません。記者に電話やメールメッセージで伝えれば、関心を持ってもらえます。
とは言っても、何かしらの資料は必要になります。これがプレスリリースです。
記者には、多くの企業・団体組織やPR会社からプレスリリースが毎日送られてきます。
この中から記者に目に留まる必用があります。
最も重要な事は、初めのタイトルになります。この中に、ニュースになる情報が一目でわかり、タイトルを読んだだけで、判断してもらえることが意識していきます。
危機管理広報の観点から、ネガティブなニュースへの対応戦略について、どのようなアドバイスをされますか。
企業リスクの環境は、企業のグローバル化やインターネットの普及により、令和に入りより広範に且つスピーディーに対応する事が求められています。
企業に取り巻くリスクは、災害、事件・事故、不祥事など複雑多岐になっています。私が最も注目することは、経営トップです。経営トップに求められる点で、広報マインドを持つことです。
例えば、旧ジャニーズ事務所が行った2回の記者会見問題。中古車販売大手ビッグモーターが保険金不正請求を繰り返していた問題での情報発信や記者会見で多くの避難を浴びました。特にビッグモーターは、広報セクションがなかったことは多くの広報パーソンが驚かされました。つまりトップがメディアをよく知ることが重要です。
もう1点は、社内の危機管理体制の構築となります。一言で体制の構築と言っても、単にマニュアルを作成することではありません。
自社のリスク環境の分析・検証(過去におきたリスクからこれから起こるであろう予知まで)。これに基づいた人員の配置。各スタッフへの専門的な研修・トレーニング。この研修が重要で、日々の情報リサーチや専門家からのタイムリーな動向や対処方など、平時にどれだけスキルアップができるかにかかっています。社内間のコミュニケーションも大切となります。
広報において、リスク情報は止められません。いかにリスク情報を軽減できるのか、またミスリードを防ぐのかがポイントになります。最も重要なのは初期対応です。初期対応の不手際で、会社の存続さえ危ぶまれる時代です。
デジタル時代において、従来のメディアと新興メディアへのアプローチの違いをどのようにお考えですか。
私の新人時代は、四マス媒体といって、テレビ・新聞・雑誌・ラジオが主流でした。(※マスは、マスコミュニケーションの略)
最近は、SNSやスマホの普及によって、情報の入手・発信方法がここ数年で激変しています。
いまや個人レベルでも手軽に、スマホ一つで情報発信・拡散が可能になりました。
情報には2種類があります。メディアを通じ記者が正確な情報を担保した客観情報。かたや個人レベルでの主観、感情を単に発信した、偏った情報やフェイク情報も多く存在します。
SNSは報道とは違う世界となります。もちろん、簡単に企業のマーケティング活動としては、活用されていますが、残念ながら、Facebook やインスタグラム などのSNSで、著名人やロゴを無断使用して会社を騙る偽広告による投資詐欺被害が急増し問題にもなっています。
四マスに加え、ネットやSNSが主流となっていますが、特にネットメディアのコンテンツは、新聞社、出版社、テレビ局の記者が報道されたものがまだ情報源になっているのも事実です。
私自身、企業の広報活動にも携わっていますが、アプローチ方法は大きく変わっていません。
プレスリリースも昔と同様です。冒頭でお話しさせて頂きました通り、記者の存在は変わりません。コロナ禍で、記者もリモートワークやオンラインでの取材が可能になりました。
従来メディアも振興メディアも直ぐにコンタクトがしにくくなって、編集部に電話をかけてもいないケースが増えています。ただ、振興メディアは記者情報が比較的入手しやすい点も事実です。
記者自身が、SNSを活用し発信されています。全く面識のない記者へDMで繋がり、取材にたどり着くケースも最近増えています。
メディアリレーションにおいて、広報担当者が陥りがちな典型的な誤りとは何でしょうか。
私が日頃コンサルをしています経験の浅い方ですが、記者に怖い印象を持っている方が
最近、かなり増えています。「記者に電話をして怒られるのではないか」「頻繁に電話をして嫌がれるor嫌われる」のではと、、、。そもそも媒体開拓のために、初めて記者に電話をする事をためらう方も多く見受けられます。
記者は読者に有益な情報をいつも探しています。そのため、広報パーソンやPR会社の情報にも耳を傾けていますので、ぜひ積極的にコンタクトをして欲しいです。
もう一つは、媒体の報道傾向や記者の取材範囲・対象分野もリサーチもせず、コンタクトをするのは避けて欲しいですね。
記者に話をして「なるほど~。聞いた事がない情報ですね。面白い。参考になる」と、言ってもらえれば合格点です。
企業の経営層と広報部門の連携において、重要なポイントはどのようなものでしょうか。
危機管理広報同様に、経営トップや経営層には、 広報マインドを持つことが重要となります。
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良く聞く話ですが、全ての情報発信ネタが上層部の意向により決定し、広報に降りてくる
トップダウン型です。それに合わせて広報も、単なる指示待ちの“単なるお伺い広報”に徹してしまうことがあります。会社の都合の良い情報や営業的な広告寄りの情報ばかり発信することは避けたいです。
広報は最も記者との接点を持ち、メディア思考や記者が求めていることが分かるセクションです。客観的な情報が何かを判断できる社内で唯一のセクションです。もっと広報の専門性を尊重し、時には広報セクションからの進言や助言、提案に耳を傾けてもらえると、情報の質が変わってきます。
また、日々企業を取り巻く情報は変化していきます。インパクトのある情報でも、発信のタイミングを逸してしまうと、効果的な報道がとれません。日々の情報交換・コミュニケーションも重要になります。
メディアとの信頼関係構築において、長期的な視点で考慮すべき点は何でしょうか。
メディアとの信頼関係を築くうえで、重要なのは日々のコミュニケーションです。
広報は、自社の情報発信ばかりにとらわれがちですが、記者サイドから問合せや質問があった時に、迅速且つ正確に対応することが大切です。
私の本でも、ジャーナリスト・池上彰氏のインタビューでも「正直さ」が企業の差別化に繋がります。また、自社のことではなく、業界内・外について、記者から問合せや情報提供依頼があります。
自社には関わらない事なので、スルーされる方もいますが、ここが広報の腕の見せ所です。自社については報道されない問合せでも親身になって相談でのり、できる限りの対応をして欲しいものです。
記者も一人の人間です。貴方を頼って問合せされ、求めている以上の対応ができれば、必ず信頼関係は強固なものになります。毎日の積み重ねが、やがて長期的な信頼関係にも繋がってきます。
今後のメディア環境の変化を踏まえ、広報担当者に求められる新たなスキルや知識についてお聞かせください。
確実にメディア環境はされに激変します。特にネットメディアはこれからも、多岐にわたり媒体数も増えてきます。また最近では、企業自らオウンドメディアを立ち上げ、広報セクションが取材し記事として発信されています。また、SNSでの情報発信の取組も重要になってきています。
つまり、これまで発信先としてメディアリサーチが主体でしたが、これからはより記者目線も必要になります。記者のスタンスで、様々なメディアを駆使して、発信していくことが重要になります。広報はよりマーケティング指向が強くなります。
より一層、自らの発信力を強化するスキルや知識を修得して下さい。
プロフィール
㈱ベンチャー広報 CKO (Chief Knowledge Officer)最高知識責任者
ゼロイチ広 代表コンサル
大学時代から広報PR業界に入り、キャリアは40年。
これまで上場企業から中堅・ベンチャー企業までの広報コンサルティングを手掛け、これまでに500社以上の経験を持つ。民間企業のほかにも自治体、大学、政党、宗教法人、博覧会事務局と、あらゆる組織広報の経験を持つ。加えて“攻めの広報”“守りの広報”の経験も豊富で戦略策定から広報担当者の教育・育成まで多岐にわたり経験。
9月より『MIKAMI広報アカデミー』の代表コンサルにも就任。これまでの経験を活かし、個別指導により、広報知識から広報実践に関するスキルが習得。
ベンチャー広報:https://www.v-pr.net/
MIKAMI広報アカデミー:https://lp.k3r.jp/venturepr/mikamipracademy